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障害年金、生活保護の受給は国民の正当な権利です

Ⅰ.はじめに

障害年金の手続きのサポートをさせていただく中で、障害年金の金額だけでは生活していくのが厳しく生活保護の受給の検討もお勧めすることがあります。

障害年金も生活保護も生活の保障を目的として生まれた社会保障の制度です。

ただし、障害年金と生活保護とでは、それぞれ支給される条件や金額の根拠が異なります。また、障害年金が保険方式で運営されているのに対し、生活保護は税金を財源に運営されている点も異なります。

今回のブログでは、障害年金や生活保護の受給は国民の正当な権利であることについて説明させていただきます。

Ⅱ.社会保障制度とは

国民が、けがや病気、失業などで生活が不安定になったときに、国が公的な責任で国民の生活を保障するのが社会保障制度です。社会保障制度は、①社会保険、②公的扶助、③社会福祉、④公衆衛生の4つの制度から成り立っています。

障害年金も生活保護も、国が公的な責任で国民の生活を保障するための社会保障制度です。

社会保障制度の中で障害年金は社会保険、生活保護は公的扶助の制度に分類されます。

①「社会保険」
病気やけが、出産、死亡、老齢、障害、失業など生活上のリスクに対して、必要な給付を行い、生活の安定を図ることを目的とした保険制度です。強制加入の制度であるところが特徴的です。障害年金は社会保険のひとつです。

②「公的扶助」
生活に困窮する人々に対して、最低限度の生活を保障し自立を助けようとする制度で生活保護制度があります。

③「社会福祉」
障害者、母子家庭など社会生活を送る上で様々なハンディキャップのある人々が、社会生活を安心して営めるよう公的な支援を行う制度です。

④「公衆衛生」
病気の予防や治療、衛生教育などによって国民の健康増進を図り、食品衛生や大気汚染などの公害対策を通して環境衛生の改善を図ろうとするものです。

Ⅲ.社会保障制度はなぜ生まれたか?

社会保障制度は、18世紀後半のヨーロッパの社会で、産業革命により工業化が進展し、農業を中心とした封建制の社会から近代社会へと移行していく中で生まれました。

産業革命前、封建制の社会では、人々は自給自足の農業を主体に、生まれ育った土地を生活の基盤にして、家族や親族との血縁や近隣の人と地縁での結びつきをベースに支えあって生活していました。

ところが、産業革命以降は工業化の進展とともに血縁や地縁での結びつきがうすれ、それらの結びつきが果たしてきた生活の保障の機能もうすれていきます。やがて工業社会で使用者に比べて力の弱い労働者は解雇や生活上のリスクにさらされるようになっていきます。

そこで、傷病、老齢、失業などのリスクに対して、公助や共助という形で社会的に対応する仕組みが必要となり、生まれたのが社会保障制度です。

Ⅳ.社会保障制度を支える考え―連帯

社会保障制度を考える上で重要な考えが「連帯」です。

「連帯」の思想は19世紀にフランスの法律家・政治家のレオン・ブルジョワにより唱えらえました。

19世紀のフランスでは、社会は貧困や病気、労働災害、教育を受けられない子どもたちなど、深刻な事態に直面していました。

フランスの法律家・政治家のブルジョワは、著書『連帯』の中で、当時の生物学の成果から、有機体の中で行われているのは
① 適者生存の競争ではないこと
② あらゆる要素が協調し相互に依存し結合している「自然的事実としての連帯」であること
③ 「自然的事実としての連帯」は生命にとって必要不可欠な法則であること
そして、人間社会には、
④ 「自然的事実としての連帯」の他に「義務としての連帯」がある
と説きました。

人は、
・過去の人類の能力及び活動の蓄積
・同時代の他人の能力及び活動
の上で生活が可能になっており、それゆえに、生まれながらに「社会的債務」を負っている。
そして、社会の各メンバーは、社会を存立させていくため、メンバー間の不公平を是正し、生活のリスクへの負担を分け合う義務としてのルールを設定し、「義務としての連帯」を果たすことで正義を実現することが必要であると説きました。

この「連帯」の思想は、多くの国の社会保障に影響を及ぼし、日本にも大きな影響を与えています。

国民年金法、高齢者の医療の確保に関する法律、介護保険法など多くの法律で「連帯」の文言が使用されています。

Ⅴ.社会保障の機能

社会保障の果たす機能は、
①生活の安定と向上
②所得の再分配
③経済の安定
の3つがあります。

「生活の安定と向上」は、人生のリスクに対して生活の安定を図るものです。

例えば、病気や負傷の場合の医療保険、高齢のため働いて収入が得られなくなった場合の老齢年金や介護保険、失業した場合の雇用保険や業務上の傷病の際の労災保険、さらに、職業と家庭の両立支援策等です。

「所得の再分配」は、所得を個人や世帯の間で移転させることにより、社会全体で、低所得者の生活を支えるものです。高所得層から低所得層へ、また、稼得能力のある人々からなくなった人々に所得を移転することなどがあります。

例えば、生活保護制度は、税方式により所得の多い人から少ない人へ再分配が行われます。公的年金制度は、現役世代が高齢者を支える世代間扶養方式になっており、現役世代から高齢世代への所得が再分配されていると言えます。健康保険制度では、報酬に比例した保険料の負担を求める一方で、必要に応じた給付が行われ、所得の多寡にかかわらず、サービスが受けられるようになっています。

「経済の安定」は、経済変動の国民生活への影響を緩和し、経済成長を支える機能と考えられます。

例えば、雇用保険制度は、失業中の生活を支援することに加えて、失業手当の給付により個人消費を減少させずに景気の落ち込みを抑制するものです。老齢年金のように、不景気でも継続的に一定の額の現金が支給することで、高齢者等の生活が安定するだけでなく、消費の下支えに効果があります。

※ Ⅴ.社会保障の機能は、平成24年版 厚生労働白書 第1部 社会保障を考えるより引用、編集させていただいております。

Ⅵ.日本国憲法と生存権

日本の社会保障制度は第二次大戦後日本国憲法で「生存権」などが規定され発展しました。

国民年金法も生活保護法も生存権について定める憲法25条をもとに作られた法律です。

生存権について日本国憲法25条で確認してみましょう。

日本国憲法

25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 ② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

日本国憲法25条では、

1項で「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と「国民の生存権」について定め、

2項で 国はその権利の趣旨を実現するため努力する義務があること「国の社会保障的義務」について定めています。

障害年金の制度も生活保護の制度も、この憲法25条の理念(「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利有する」)を国が実現するために作られた制度で、決して、国から受ける施しではありません。

すべての国民が憲法により保障されている権利です。また、国はその権利を実現するために努力する義務があります。

なお、この生存権は基本的人権に含まれますが、11条では、「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利」として定められています。

Ⅶ.国民年金法と生活保護法

次に、憲法25条にもとづいて作られた国民年金法と生活保護法について、憲法第25条との関係と制度の目的について確認してみましょう。

障害年金は国民年金法に、生活保護は生活保護法に定められています。

国民年金法

(国民年金制度の目的) 第一条 国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。

国民年金法第1条には、国民年金制度は、憲法25条第2項にもとづいて、老齢、障害又は死亡によって国民の生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯により防止し、健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とすることが明記されています。

国民年金は社会保険方式で運用される公的保険です。

老齢、障害、死亡のリスクに遭遇したときに必要なお金が支給されます。

加入は法律で義務づけられており、20歳になると強制的に加入し、毎月の保険料を支払わなければならない仕組みになっています。給付も保険料の納付実績が一定の条件をみたさないと行われません。

このように社会保険は、病気やケガ、障害、倒産、退職、老齢、死亡など人生の様々なリスクに備えて、人々が集まり集団をつくり、あらかじめお金を出し合い、これらのリスクに遭遇した人に、必要なお金やサービスを支給する仕組みです。

公的な社会保険制度では、法律等で国民に加入が義務付けられ、支給される給付と保険料などの負担の内容が決められます。

生活保護法

(この法律の目的) 第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

第一条では
①この法律は、生活に困窮するものの最低限度の生活を保障しようとするものであること
②この法律による保護は、国の責任で行われること
③この制度の目的は、最低限度の生活保障と自立の助長であること
が定められています。

ポイントは、生活保護法による最低生活の保障は国の義務であり国民の権利であること、「最低限度の生活」は「健康で文化的な最低限度の生活」で、国がその権利を保障していることです。

憲法25条では、1項で、すべての国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有し、2項で 国は、その国民の権利の趣旨を実現するため努力する義務があることについて定めています。

保護を受けずに我慢し、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができないとしたら、憲法ですべての国民に保障されている生存権を放棄し、国が本来果たすべき義務を履行させないことになります。

生活保護はその世帯で利用できる資産、働く能力、年金・手当・給付金、扶養・援助などあらゆるものを活用しても、なお生活できないときに行われます。そのため、生活保護に当たっては所得や資産について調査が行われます。

なお生活保護制度は税方式で行われます。税方式は、保険料を徴収せずに租税を財源に給付を行う方式です。児童福祉、障害者福祉といった社会福祉制度も税方式で運用されています。

最低生活費は、生活扶助額+加算額+住宅扶助他の扶助で決定します。

障害年金と生活保護制度の比較

下記図の通り、大きな違いは障害年金は社会保険方式で年金保険料の納付要件が問われるのに対し、生活保護は税方式で、そのような要件はありませんが、収入により保護金額が代わり、また保護を受けるために資産を売却して生活費に活用することが求められます。

障害年金生活保護
支給方式社会保険方式
※原則、保険料の納付が一定の条件でされていたことが必要
税方式
支給単位(対象)障害者個人困窮する世帯単位
保障の程度  障害の程度(重さ)による健康で文化的な最低限度の生活を営むことのできる程度
収入制限20歳前障害のみあり最低生活費から世帯収入を引いた額が生活保護費
資産の活用なしあり(車など資産の売却による活用が求められる)
扶養義務との関係なし保護より扶養義務が優先はするが、保護の要件ではない。

生活保護費は、最低生活費から世帯収入を引いた額が生活保護費になり、障害年金を受給する場合、その額は収入にカウントされます。なお、障害年金1級、2級の場合は最低生活費に障害者加算がつきます。

生活保護費

Ⅷ.なぜ頑張った人と頑張らなかった人の差を国が解消するのですか?

広島県が作成した人権啓発冊子「思いやりと優しさのハーモニー」の中に社会権についてわかりやすくかいてある記事がありましたので紹介します。

以下の枠内は、「思いやりと優しさのハーモニー」からの抜粋です。

Q 「社会権」は実質的な平等を実現するための権利ということですが,頑張った人と頑張らなかった人との間に差がつくのは当たり前で,それは,頑張った人の努力の結果だし,頑張らなかった人の責任だと思うのですが,どうして国が介入してその差を解消しなければいけないのですか?

A 確かに,自分自身の努力や,逆に自分自身の責任によって,差がつく場合もあるのでしょう。

しかし,人の一生は,運動会の障害物競走とは違います。

みんなが,同じスタート地点に立って,「よーい,どん」で一斉にスタートするわけではありませんし,みんなに平等に同じ障害物が用意されているわけではないからです。障害物のない人もいれば,乗越えるのが非常に困難な障害物が用意されている人もいるのです。

 それに,誰もが,生まれる時代や場所を選べませんから,あなたが,今,そこでそうしているのは偶然なのかもしれません。

そうだとすると,その差を生じさせているのは,多くの場合,生まれた時代や場所,病気の有無,会社の倒産など自分の意志ではコントロールできない偶然や運などの力によるものなのではないでしょうか。

 ですから,国が介入し,「社会権」によってその差の解消を図っていくということは,国家による施しなどではなく,当然,主張することのできる正当な権利なのです。

Ⅸ.まとめ

1.社会保障制度は、国民が、けがや病気、失業などで生活が不安定になったときに、国が公的な責任で国民の生活を保障する制度です。

2.社会保障制度は、18世紀後半のヨーロッパの社会は、産業革命により工業化が進展し、それまでの自給自足の農業を中心とした封建制の社会から工業社会へと移行していく中で、家族や親族との血縁や近隣の人と地縁での結びつきがうすれ、生活上のリスクに対して社会的に対応する仕組みが必要となり、生まれた制度です。

3.19世紀当時の生物学の成果から、有機体の中で行われているのは適者生存の競争ではなく、あらゆる要素が協調し相互に依存し結合している「自然的事実としての連帯」であり、人間社会には、「自然的事実としての連帯」の他に「義務としての連帯」があります。

人は、過去の人類の能力及び活動の蓄積や同時代の他人の能力及び活動の上で生活が可能になっているゆえ、生まれながらに「社会的債務」を負っており、社会の中で自分以外のメンバーに対して、「義務としての連帯」を果たすことが必要であると考えられました。

4.日本国憲法25条では、すべての国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有し、 国は、その国民の権利の趣旨を実現するため努力する義務があると定めています。

5.障害年金も生活保護も憲法25条に基づきつくられた制度で、国による施しではなく、国民の正当な権利です。

以上について説明させていただきました。

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