障害基礎年金認定における地域差の縮小と「障害年金業務統計」の公表について
目次
1.「障害年金業務統計(令和元年度決定分)」が公表されました。
令和2年9月、厚生労働省と日本年金機構は、障害年金の新規裁定と再認定に関する決定件数をまとめた「障害年金業務統計(令和元年度決定分)」を公表いたしました。
この統計資料を通して、過去において厚生労働省から公表された障害基礎年金の認定の地域差がどのように解消されているのか、地域差解消のために策定された 『精神の障害に係る等級判定ガイドライン』がどのように運用されているのか確認することができます。
今後(令和元年度分以降)は、障害基礎年金・障害厚生年金の新規裁定・再認定について、決定区分別件数、診断書種類別件数、都道府県別件数等について、次年度秋頃を目途に毎年、年金機構ホームページで公表されることになります。
令和元年度の業務統計の内容についての紹介に入る前に、平成27年1月に発表された障害年金の認定における地域差と、その解消に向けて策定され平成28年9月から実施された 『精神の障害に係る等級判定ガイドライン』について、最初に説明します。
2.平成27年1月 障害基礎年金の認定の地域差調査結果 について
平成27年1月に厚生労働省から「障害基礎年金の障害認定の地域差に関する調査結果」が公表されました。不支給の割合は最大で6倍の地域差があり、その差は精神障害・知的障害の不支給の割合によるもので、認定の判断の地域間のバラツキによるものであることが明らかにされました。
(1)公表された内容のポイント
① 障害基礎年金の申請で不支給となった件数の割合は、都道府県間で最大6倍
- 不支給の割合が最高 大分県(24.4%)
- 不支給の割合が最低 栃木県(4.0%)
② 新規に申請を受けて決定を行った事例のうち、精神障害・知的障害の割合 全体の66.9%
全体の不支給に対して、精神障害・知的障害の不支給の割合 53.9%
③ 不支給割合が高い県は、精神障害・知的障害の等級非該当の割合が高い
不支給割合が低い県は、精神障害・知的障害の等級非該当割合は低い
④ 肢体の障害の等級非該当割合は、不支給割合の地域差と必ずしも同じ傾向とならない
⑤ 内部障害や外部障害(肢体の障害を除く)の等級非該当割合は、地域差の傾向を確認することは困難
⑥ 精神障害・知的障害の年金支給の目安は、
不支給割合が低い10県においては、「日常生活能力の程度」が (2)相当
不支給割合が高い10県においては、「日常生活能力の程度」が概ね (3)相当
⑦ 精神障害・知的障害の診断書に就労状況の記載がある場合とない場合の等級非該当に大きな差はない
⑧ 初診日不明による却下処分となった割合は、全体で0.7%。この地域差の傾向の確認は困難
出典 2021年3月30日 「障害基礎年⾦の障害認定の地域差に関する調査結果」を公表します|報道発表資料|厚⽣労働省
(2)等級判定ガイドライン他、地域差の解消策
厚生労働省は、精神障害・知的障害が全体の決定件数の67%を占めていたことから、精神障害に関して認定医の判断のばらつきを抑え、地域による不公平が生じないようにするため、
① 全国統一のガイドライン 『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』を策定、平成28年9月1日から実施
② 従来、都道府県ごとに行っていた障害基礎年金の審査業務を東京の障害年金センターに集約 しました。
等級判定ガイドラインでは、
①「日常生活の能力の判定」:食事や清潔保持、金銭管理など、日常生活の7つの場面についての日常生活能力を4段階で判定した結果と、
②「日常生活の能力の程度」:全体的な制限度合(介助の必要度合)を5段階で判定したもの
から、等級の目安を求める「障害等級の目安」が定められました。
3.令和2年9月「障害年金業務統計」について
令和2年9月、厚生労働省と日本年金機構は、障害年金の新規裁定と再認定にかんする決定件数をまとめた「障害年金業務統計(令和元年度決定分)」を公表しました。
この統計の中から、地域差解消の状況と、精神の障害に係る等級判定ガイドラインで定めた等級の目安がどのように運用されているかが読み取れます。
(1)地域差の縮小の状況
平成24年度と平成29年度~令和元年度(ガイドライン施行後3年間)の都道府県別「精神障害・知的障害に係る障害基礎年金の支給決定割合(新規裁定)」を比較すると、標準偏差が10.9%から3.5%に縮小しており、地域差が改善しています。
このことは、平成24年度においては、各都道府県間の決定率が、平均に対し±10.9%の範囲に多くの県が散らばっていたのに対し、平成29年度~令和元年度(ガイドライン施行後3年間)では、ちらばりが平均から±3.5%の範囲に縮小していることを示しています。
(2)精神障害の障害等級の目安の運用状況
精神障害の支給決定の内容から、
(1)ガイドライン施行後3年間(平成29年度~令和元年度)の実績を見ると、90%以上のケースで障害等級の目安と同一の障害等級が認定
(2)ガイドラインの日常生活能力に係る区分において重度とされたケースほど、支給決定割合が高くなる傾向
が見えます。
このことから、診断書の作成にあたっては、医師に日常生活の状態を具体的に伝え、診断書の日常生活能力の判定、日常生活能力の程度欄に正確に反映していただくことが重要であることがわかります。
この点は精神障害・知的障害の障害年金の申請において重要なポイントです。
ぜひ、発表資料をご一読ください。